Damascene-布目象嵌の東西
鉄などの硬い金属の表面に様々な方向から刻みを入れて荒らし、その上に金や銀などの薄い板を食い込ませる技法を布目象嵌と言います。シリアのダマスカスにおいて紀元前より作られていた金銀象嵌細工が起源とされ、その技法はのちに「Damascene(ダマシン)」と称されました。その技法がシルクロードの流れに乗って日本に伝わり、桃山時代になると盛んに用いられるようになり、以降、武具や装飾品などの金工品を彩りました。しかし、明治時代に入り、武士という身分が廃止されたことにより多くの職人が困窮します。
肥後の職人から布目象嵌を学び、京都で刀剣商をしていた初代駒井音次郎も同様に職を失い、明治6年に輸出向けの製品を作ることを志します。音次郎によって生み出された製品は明治後半に海外で人気を博すようになり、「Komai Work」と呼ばれ、のちに「Damascene Work」と称されました。
一方、江戸では、慶応年間に装剣金工職であった鹿島家が、鉄地ではなく四分一や赤銅地に布目象嵌を施す技法を発明しました。初代鹿島一谷と弟の一布はともに布目象嵌専門の職人となり、明治時代には2代一布が更に表現の幅を広げます。一布は2代で途絶えますが、一谷の家系はそれ以降も続き、鉄地に象嵌を施す他の布目象嵌工とは一線を画した独自の作風を打出し、国内外の博覧会・展覧会で活躍します。
本展では、当館所蔵品の中から、京都の駒井音次郎と東京の鹿島一谷という同時代に布目象嵌に携わった人物を取り上げて作品を展示するほか、江戸から昭和初期にかけて作られた布目象嵌の優品を展示いたします。日本の東西でそれぞれの輝きを放った細緻な技をぜひご高覧ください。